February 25, 2006

育てるということ (4) − 人とイヌと父性 −

 ああ,やっと人とイヌの話にたどり着けました.

 大抵の場合,7〜8週目くらいからイヌは飼い主のもとに移ります.これは,ちょうどイヌの行動範囲が群の中に拡大する頃です.したがって,ここで子イヌが出会うべきなのは,母性よりも父性ではないかと想像できます.つまり,本来の群に代わってルールや掟を教えてくれ,外の世界に導いてくれるとともに,自分を守ってくれる新しい群です.もちろん,デジタルの世界ではありませんから, 「昨日まで母性,今日から父性!」 なんて杓子定規に行くはずはありません.イヌの心の発達に対して,父性の役割の比重が段々に増してくるだろう,くらいの意味です.そして,その安心感の核になるべきものが,先に書いたような資質を持ったボスなんではないかと思うわけです.

   繰り返して言いますが,母性が不必要というわけではありません.特に子イヌが小さいうちや迎えたばかりの頃は,包み込むような温もりも大事でしょう.ただし,多過ぎる母性がイヌの心の成長を妨げる可能性はあると思っています.
 またちょっと,人間の話に戻ります.
 先に,年少期の母性の不足が心の成長に悪影響を及ぼすと書きましたが,その反対に,母性が濃厚過ぎても害があります (むしろ日本の機能不全家族は,こちらの方が多数派と言われています).よくあるのは,[夫の存在感が希薄,あるいは不和] → [夫や外の世界にも向けられるべき母の関心が,子供に集中する] → [不幸そうな母を子供がかばおうとする] という図式から,いわゆる 「母子カプセル」 なるものが形成されてしまう,というパターンです.こういう中で子供が成長すると,幼児的な万能感はありますが,一人立ちのできないイビツな精神が形成されていきます.これは,当人にとっては母親の自我に飲み込まれてしまうような恐怖でもあり,母親に対する暴力や,極端な場合にはその命を奪うような事件にまで発展することがあります.

 イヌの場合は,無意識レベルでそこまで深い相互作用は無いかもしれませんが,似たような状況はあるかもしれません.あまりにも家族や飼い主の関心がイヌに集中し,その一挙一動が見られているような感じになると,守られている安心感はあるかもしれませんが,自分を見失うような感覚にもなるんではないでしょうか? イヌといえども,ある程度の自立のためには,ちょっとは一人でものを考えたり,自分の世界を持つ時間が必要なんではないかと思います.全部がそうではないでしょうが,いわゆる 「権勢症候群」 というやつの何割かは,人間で言う幼児的万能感(よーするにワガママ)の表われではないかと思っています.

 もし,この段階で多く求められているのが父性だとしたら,飼い主は厳しさと寛大さの両面を持っており,なにより揺るがない自信を持った大きな存在でなくてはいけません.まぁ,そう言うと大層ですが,そこまで力を入れなくても人間が普通に接していれば,イヌからは自然とそんな風に見えるのかもしれません (ゴハンくれるしね!) .ただ,四六時中べったりと過ごしたり,細かいことにイチイチ腹を立てたりすると,イヌも息苦しくなってくるかもしれません.また,暴力で服従を強いたりすると,イヌの自信を無くさせたり,感受性を鈍磨させてしまうことにもつながるでしょう.さらに,自信の無い態度でイヌを混乱させたり,イヌの反抗(?)にオロオロしたりすると,今度は群でいること自体が不安になり (野生であれば,このボスに従っていたんじゃ自分の命が危ない...という恐怖),どこかで歯車が狂ってくるかもしれません.人間にも残されているはずの動物としての能力を信じて,まずは自然体で接するのが大事なのではないでしょうか.

<続く>

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