June 14, 2012

時の守り神 (1)自然は美しい?

若いころ、その甘美な響きに惹かれて何度か「心理学」の講義を受けた。
心理を科学するのであるからして、ヒトの心なんぞ手に取るようにわかるようになるに違いない・・・という稚拙な期待は早々に打ち砕かれ、膨大な蓄積の前にただ立ち尽くすだけであった。

一口に心理学といっても、その守備範囲はやたらと広い。
知覚、認知、情動、言語、行動などがそれぞれ個別の領域として成立してるし、生理学や脳科学に近いものから、精神分析や哲学に近いものまである。幼児と児童と成人と高齢者ではまた違う。自然科学でもあり人文科学でもある。それらをまた、基礎、実験、応用(臨床)と括ったりするもんだから、もう訳がわからない。

ということで、その学問領域と研究者に畏敬の念を抱いたわけだけども、その一方で、厚顔無恥だった学生が「何やってんだ、お前らは」と心の中で毒づいたことも告白しておく。狭い専門分野に閉じこもって何をチマチマ研究してやがるんだ!?と。

例えば錯視現象などは隅から隅まで研究されていて、そのメカニズムを鮮やかに説明してくれる。でも、そんな特殊ケースをいくら積み上げでも、普通に見たり聞いたりするものの印象はどう形成されるか、なんてことは皆目わからない。
なぜ絵画や音楽が心地よく、落書きや騒音はそうではないのか、とか。
「異常」な知覚は、普通と違うポイントを指摘すれば事足りるが、普通の知覚は視覚システム全体を説明しないといけないから、、、かもしれない。

中でも、子供のころからずっと頭にあったのが「自然に対する印象」というテーマ。
私たち人間は海や山や空を見ると「美しい」と感じ、救われたり癒されたり元気になったりするけれど、それって一体なぜ?という疑問である。
残念ながら、壮大な学問体系である「心理学」は何も答えてくれなかった(自分が知らないだけかもしれないが)。
我ながら青臭い疑問だと思うが、今でも引きずっている。たぶんこのまま棺桶まで持っていくんだろう。


つづく
 

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