April 24, 2010

空間脳と関係脳(4) -嗅覚力-

なぜ,犬と人の感覚がこうも違うのか?
理由の一つとして,嗅覚性能の違いがあると思う.

人間の空間認知は,(少なくとも晴眼者は)ほぼ100%を視覚に頼っている.視覚というのは,空間のセンサだと思われがちだが実は違う.私たちが知覚しているのはあくまで物(のイメージ)であって,空間ではない.
センシング・システムの代表的な機能は,センサが感知したものを「ある」と判定することだが,裏を返せば,感知しないときに「無い」と判断することでもある.
視覚命の人間は,空間を「物と物の隙間」としてしか認識していないのである.
実際には,そこには空気が充満してるし,心理的なものも含めて,目に見えない様々な力学が作用している.

嗅覚の発達した(=視覚への依存度が低い)犬は,人間より仔細に周囲空間を知覚・認識している可能性が高い.人間がスルーする空間にも匂いは漂っていて,犬はそれを手がかりに有意な情報を得ている.人は物理的な「仕切り」が無いと空間を分別できないが,犬はもっと複雑な空間マップを頭の中に作り上げているかもしれない.

いや,犬だけじゃなく,馬も羊も鳥もそうだ.
彼らの行動を見ているとそんな気がする.
放牧地にまだ一杯草が残ってるのに,わざわざ苦労してフェンスを乗り越えていくヤギの行動はホトホト理解に苦しむが,彼らにしてみたら,何の必然性も無いところにある仕切りこそ,無意味で乱暴で許せない行為なのかもしれない.

鳥というやつは,積んだ野菜を散らかしたり,盛り上げた畦を崩したり,とにかく世界の秩序を破壊することに熱心だが,彼らの通り道や砂浴び場は,ちゃんと決まった場所だったりする.鴨の群なんか,通り道で見知らぬ物に出会うと途端にガーガーとパニクっている.見ている分には微笑ましいが,忙しい時には迷惑な習性である.
蝶も,一見何の手がかりも無い空中に,彼らにしか見えない通り道を設けることで知られている.ジャングルの中で無数の蝶が行きかう蝶道に出会うと,その見事さに魂を奪われるんだそうである.


つづく
 

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