October 4, 2006

言葉ノチカラ その壱

朝日新聞のTVコマーシャルのコピーに,

 言葉は未来
 言葉は思い出
 言葉は鎖
 言葉は慰め
 言葉は翼
 言葉は現実
 言葉は夢
 言葉は希望
 私たちは言葉の力を信じている

というのがある.
いろいろ好きだ嫌いだの意見があるが,個人的にはここに 「言葉は呪い」 というのを加えて欲しかった.

発声された言葉に実質的価値があると信じられた時代,祝や呪はその基本的なかつ重要な機能だった.
夢枕獏描くところの安倍晴明によれば,名前を口にすることはすでに呪術の一部だったのだそうな.
(そういえばこの間観たゲド戦記でもそんなこと言ってたな)

呪文によって物を動かしたり天災をコントロールできるかどうかは知らないが,少なくとも人間に対して,言葉が強力な力を持つことは疑いようがない.
人は人(自分自身を含む)が発した言葉によって感情を動かされ,行動を左右され,自由を制限される.
幼い頃にかけられた何気ない一言が,その人の一生を決定することだってある.
言葉は時や場所を超えて作用し,しかも目に見えない.
呪術と言うと何やらオドロオドロしいが,外形的には十分にその機能を備えている.

小泉元首相の手腕をあーだこーだ言えるほど政治に詳しく無いけれど,彼が言葉の力を巧みに使う政治家だったことは確かだ.
2005年衆院選挙前,彼は 「郵政民営化」 をぶち上げた.
メディアも政治家も国民も一斉に注目し,当然,誰もがその詳しい説明を待った.
しかしいくら待っても説明はなされない.
気がつけば,選挙は自民党の圧勝に終わっていたのである.

小泉元首相は 「先手を取る」 呼吸を心得ていた.
武道の世界で 「先手を取る」 とは,必ずしも先制攻撃を意味するのではなく,相手を待ちの態勢にして自分の一挙一動に意識を固着させ,行動の自由を奪ってしまうことを本来の目的とする.
一旦先手を取られた者は,自分から技を仕掛けることができなくなってしまう.

首相の目論見どおり,選挙は彼のペースで終始した.
すべての候補者は(賛成にしろ反対にしろ)郵政民営化への態度表明を強いられたし,対抗馬であるはずの民主党なんか, 「問題は郵政民営化だけではない!」 という何だか訳のわからないスローガンを掲げる羽目になってしまった.

小泉元首相の言葉はよく 「内容が無い」 と批判された.
しかし,少なくとも国政を動かす力はあった.
意味不明だが強い力を持っている・・・これはまさに "呪文" である.

つづく
 

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