面白いでしょ?
この本の結論を先取りすると,現代科学が到達した "生命観" は,
1) 自己複製するシステム
2) 動的平衡にある流れ
の2つに集約される.
1)はまぁわかるとして(DNA構造発見にまつわるダークなエピソードがこれまたおもしろいのだが),2)の「動的な平衡」 とは何なのか?
端的に言ってしまえばこれは,分子レベルで見れば,生物の身体が外界の物質と絶えず置き換わっていることを表わしている.
細胞が死と再生を繰り返す話はわかりやすいが,これは細胞レベルの話ではない.
生きて活動している細胞も,それを構成する分子は,絶え間なく,かつ意外なほど高速に新しい分子に置き換わっているのだ.
シュレーディンガーが正しいかどうかは置いとくとして,外乱/内乱によって組織が常に損傷の危機に晒されているのは事実.
生命は不可避的に増大するエントロピーに対抗するため,組織を堅牢無比にするのではなく,自らを流れの中に置き,エントロピーを排出する方策を採ったのだ.
それを実証する実験結果を説明した後,著者はそのイメージを次のように表現する.
「生命とは要素が集合してできた構成物ではなく,要素の流れがもたらすところの効果なのだ」
「肉体というものについて,私たちは自らの感覚として,外界と隔てられた個物としての実体があるように感じている.しかし,分子のレベルではその実感はまったく担保されていない.」
「私たち生命体は,たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかない.しかも,それは高速に入れ替わっている.この流れ自体が「生きている」ということであり,・・・」
「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない.」
私たちが貝殻から感じ取っていたのは,そんな動的な流れだけが生み出すことのできる,ある種の "秩序" だったのである.
つづく
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